ああいちおうもっともらしい雰囲気を出すためにNewsweek誌2020年10月号の特集記事という設定にしています・・・
以下は完全にフィクションです。誤解しないようお願いします! (hiro.senaga)
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2020年10月号の「Newsweek」誌の特集は『日本人が熱狂するマイクロ・ビジネス・ブーム』というテーマで、ここ10年で激変した日本の起業セクターとあたらしい起業スタイル、”マイクロ・ビジネス”のブームについて特集している。ここにその抜粋を紹介しよう。
発端は2012年にさかのぼる。
この年、グーグルはコーディング・スキルなしにオフィス機能をプログラム化できる「グーグル・ビジネス」なるサービスの提供を開始した。
それ以前のビジネスといえば市販されている会計機能や営業ツールを個別に入手し、独自システムと連携させるという不便極まりないモノだった。
またシステムもフロント、バックエンド、データベース機能と個別に構築して組み合わせるのが主流で、ちょっとした機能の追加や修正もコーディングのスキルを持つ者を介さなければならず、時間とコストがかかるのが常態化していた。
ブログを操作できる程度の知識で誰でもビジネスをプログラム化できるという「グーグル・ビジネス」の登場はこうした状況を一変させた。
営業や顧客管理、会計といった一つ一つの機能はモジュールとよばれ、ベーシックなモジュール群は無料で提供される。無料モジュールを組み合わせるだけで従来のビジネス機能を個人だれもが手に入れられる環境になったのだ。そのうえ、ビジネスの命運を握るマーケティング分析についても高度な統計解析モジュールと最新の統計データが1000ドルほどの有料モジュールとして提供されたため、こうしたモジュールを組み合わせて新しいビジネスを創出することがゲーム感覚でおこなえる時代が到来したのだ。
その恩恵を最大に受けた国の一つが日本だ。
この国ではそれまで起業コストやリスクは高くつくものと思われ、優秀な人材が起業セクターへ流入するのをはばんできた。
グーグル・ビジネスがそこにもたらした変革はおおきい。
もともと多様で精度の高い統計データが整備されていたことも追い風になったと専門家は指摘する。
それまでの鬱積を払しょくするかのように日本人は起業ゲームに熱中しはじめた。
高くてもせいぜい数千ドルという限定されたリスクに鼓舞され、プログラムド・ビジネスに参入した人口は推計によると20万人ともいわれる。
量は確率的に質をもたらす。この結果、プログラムド・ビジネスの一部は独自に市場を開拓することに成功し、本格的なベンチャー2.0の時代が幕開けしたのだった。
この潮流の最大の特徴はスモール・ビジネスの増殖である。
一つ一つのビジネス・モデルは月に1000~2000ドル程度だが、月100ドル程度のコストで維持できるため、それを複数所有することで雇用時の給与をしのぐ収益を得ることが可能になったのだ。
こうしたやりかたは当節、クラスタリング(束ねるという意)と呼ばれる。
マーケットを所有するビジネス・プログラムは”アクティブ”と呼ばれ、いまやそのアクティブ・プログラム自体を取引する売買市場まで存在する。
日本ではいま、ビジネスは”起業するもの”から”小規模を複数所有し運用するもの”へと変化しつつあるのだ。
こうしたアクティブ・プログラムの事例をいくつか紹介しよう。
モノを売る
26歳のアキラはいま二つの物販ビジネスを所有している。二つともフロントエンドはウェブサイトだ。一つは絶版された古本を専門に扱うサイト。そしてもう一つはTシャツ販売のサイトだ。絶版本の中にはプレミアム価格で取引されるものもあり、アキラはその分野で豊富な知識を持つ。古本は卸専門の業者からアキラが厳選したものだけを購入し、自分のサイトで販売する。業者には数百円程度で一週間ほど仮ホールドできるサービスがあるため、これぞとおもった本は購入するが、迷うものに関しては購入の代わりに数百円のホールド・フィーを支払い、サイトで反響や受注を確認してから実際に仕入れる。こうしたことで徹底的に在庫リスクを管理する。Tシャツ販売も基本的に同様な仕組みだ。受注も発注もすべてプログラムがやってくれるため、アキラがやることはほとんどのないのだが、商売熱心な彼はサンプル抽出テストを繰り返すことで消費者が好むわずかな嗜好の違いを追求し、Tシャツの販売効率を改善してきた。
「ほんとわずかな違いで売り上げに差が出てくる。たとえば水色部分をピンク色に変えただけで購入層や枚数に違いがでてくるんです。そういった違いはセッションごとにランダムに仕掛けるのですが、統計上意味のあるものを得られた時点で全セッションに改良パターンを表示させるようにしています」とアキラは言う。
古本サイトの顧客リストは3000人。サイトからの売り上げは月に8万円程度。だが時には一回の売り上げから数万円の利益を得ることもあるという。彼は言う。「絶版本はぼくの趣味を兼ねたテーマでもあるんです。売り上げだけが目的ではないんです。発掘した喜びを購入者と共有する・・・そんな感覚を楽しんでいますよ」
Tシャツサイトには2万人が登録しており、新作の通知はメールでおこなう。このビジネスからの売り上げは月に15万円程度。しかもこれは毎月微増しているのだという。
二つのサイトにかかる手間は限定的なためアキラは契約社員として働いてもいる。「ぼくが給料で得ているのが25万円。それに二つのサイトからの売り上げを足すと48~50万円ほど。まあサイトには全部で1万5千円ほど経費がかかるかな。それを差し引いても45万は収入になる。悪くないと思います。それになによりもリスクを限定したカタチでビジネスを学べるんですから。これを基盤にもっとアクティブなプログラムを運用していきたいと考えてます」
個人投資家
朝7時に起床し、CNNの30ミニッツと朝のワイドショーをザッピングしながらのんびりと食事を終える。
8時直前、昨日の市況とニュースを照合しながらインパクトの有無を推測し本日のシステム稼働を決定する。
問題がなければシステムは8時に稼働し、本日の売買注文を証券サービスに発注し終え、個別銘柄のノイズ的な動きをモニタリングするだけ。
今年40歳になるトオルの週日の朝はこんな風に始まる。
マーケットが開始してからもトオルのやる仕事と言えばきちんとシステムが稼働しているかを監視するくらいのものだ。
午後3時にマーケットが終了するとトオルの投資プログラムは自動的にデータの更新作業をおこない、売買の検討を要する銘柄をリストにしてアウトプットしてくれる。
トオルはそれに一通り目を通し微調整をすることもできるが最近ではそれもめったにないという。
「ぼくのいちばんの仕事は投資プログラムがいまの市場の状態できちんと機能しているかをチェックすること。改善や改良はほとんどなくなったね。大まかに市場が強気か弱気かで保有する複数のプログラムの強弱をわずかに調整してやるくらいかな」
そんなトオルの資産は数億円に達するという。「でも日々の運用に投入しているのは数千万円程度。それを日々0.5~0.7%を目標に運用するんだ。数値は平均だね。参入の機会は少ないときは数日に一回程度。それでも十分に目標をクリアできてるよ。ぼくの場合は最長3日程度のスイングが主流だね」
2015年ごろから緩和された移民受け入れ政策で日本の証券市場はふたたび活況を取り戻した。
「日本の場合、人口政策がカギをにぎっているのは明白だった。2015年に外国人を受け入れるという方向転換はおおきかったね。その結果、不動産市場と証券市場にこれまでにない規模の資金還流がおこり地価や株価が息を吹き返したんだ。それまで低迷する日本の不動産や証券市場は外国籍の彼ら個人投資家にとっては安く買える垂涎の投資対象だったんだけど規制が大きな障壁になってたからね。ぼくの資産のほとんどが2015年以降に築き上げたものなんだ」とトオルは言う。
彼は月に20日程度の運用から平均300万円強の収益を得ている。実に年3600万規模の個人ビジネスだ。それでも彼のビジネスに携わっている人間は彼を含めてたった二人だ。「税金も大変だよ。節税目的で秘書を雇っているくらいだからね。稼働しているシステムの監視にぼく以外の人は必要ないんだ。不具合を起こしたことはこれまで一度もないけど、もしあったとしてもほとんどのことは僕が対処できる。それよりぼくにとっては投資プログラムが第三者に漏れることの方がリスクなんだ。だから僕にとってプログラムだけでなりたっている今の仕組みに十分満足しているよ」
株取引の業界は早くからシステム化が進んでいたが、グーグル・ビジネスはこれまでうまくいっていた投資家にとって明らかに追い風になったようだ。「ほんとうに優秀な統計解析ソフトを入手しようとするとそれまでは数百万円もしたんだ。ぼくが本格的にファンドを立ち上げたとき、この金額はとても大きかった。そこにグーグルが十万円程度で利用できる高度な解析ソフトのモジュールを提供してくれたんだからね、ありがたかったよ。会計モジュールも簡単に操作できるしね」
プログラムド・ビジネスが活況を呈している昨今でも投資関連のアクティブ・プログラムのほとんどは億円単位という破格の値段で取引されている。その理由をトオルはこう説明する。「運用プログラムが検証されることはもちろん運用実績も計算プログラムで検証される時代だ。虚偽のプログラムで高額を得ることなんて不可能な時代だよ。投資の世界はユテリティな部分が大幅に改善されても”ノウハウ”がはるかに価値をもっている数少ないセクターの一つなんだ。統計解析のツールが安価になった結果、”どの視点で解析を実行するか”ってことが重要な価値としてクローズアップされてきた。投資の世界は複雑で、視点を見つけようと思えば選択肢は無数にあるからね。有効な視点に気づく思考にこそ価値があるんだ。だから運用能力の高いアクティブ・プログラムを手に入れようとするとそれなりの出費するか、先駆者のように数年場合によっては10年ちかく市場を経験することで発見するしかないだろうね。ぼくのシステム?ぼくは売る気はないよ」
作家稼業
「本音を語ってほしいなら匿名が条件。実名では限定的なことしか語れない。どっちがいい?」
彼はおもむろにそう切り出してきた。もちろんこちらはできるだけ赤裸々な事実を知りたいのだ。記者に選択はなかった。日本でも著名なベストセラー作家、だがここでは、彼の名前をX-1 とさせていただく。
X-1 が駆け出しのころ、彼の作業のほとんどは文章を書くことだった。
そこに端末テクノロジーの変革が起こった。タブレットの登場だ。その流れにペイパルとグーグルの少額決済サービスを巡る競争が加わった。その結果、マイクロ・ペイメントの変革が進み、出版関連業界のビジネスモデルはわずか数年で激変してしまった。
まず出版会社の機能はほとんどいらなくなった。
X-1 をはじめ作家の多くは個人的に契約を結んでいる編集者がいて、編集作業はアウトソースしている。
そしてこれまでと変わってきたのがプロモーションだ。ほとんどの作家は自分のウェブサイトをもち、ペイパルなどの決済機能を使って直販ビジネスを手掛けている。しかも従来はテキストを作品として販売していればよかったが、タブレット上のアプリが進化していくなかで読者は作品の創作風景に関する情報までも欲しがるようになった。いまや一口に作品と言ってもテキストのほかに取材の様子を収めた画像や動画もパッケージされるのが一般的になった。動画や画像を通して読者ファンは作家が創作で苦しむプロセスまでもドキュメンタリーとして楽しむようになった。
変革はそこだけにとどまらない。
X-1は言う。「匿名を前提にしているから話すんだけど、以前は作家がアタマをかきむしりながら苦闘していたプロット作りにも特殊な計算ソフトを使っているんだ。統計データを分析することでよりハラハラ、ドキドキして最後に満足するようなシナリオになるんだ。人が知覚した情報を処理したときに脳内で分泌されるドーパミンやアドレナリンの研究はかなり進化していて、それらのノウハウをプロット作りに応用することで、よりインパクトがあって満足感の高い作品にしあがるんだ。ぼくの場合、取材には映像の専門家もつきあわせる。どの作家もやっているけどサイトではファン向けにTシャツやマグカップも売って自分のブランドを確立するのにみんな必死なんだよ」
計算プログラムでプロットが書ければだれでも作家になれるのではないのか?
その問いにX-1 はこう反論する。
「ツールが進化することと、アウトプットするスキルが備わることとはまったく違う次元の話だ。たとえうまく使いこなせたとしてもそれを読者が読んだときどう反応するかを”先読み”するチカラは実践を通じてしか養えない。アウトプットの質を高めるトレーニングに必要なのは信念と忍耐だよ。このあたりまえのキーワードを先の見えないことにたいして投入するのは簡単そうで、とても難しいことなんだ」
ブランドとして確立したイメージのあるX-1 にも懸念が全くないわけではない。
「最近著しいのは数人のグループで一つの作品を突貫的に完成させてしまうグループ・オーサーの台頭だ。彼らの売りはなんてったってスピード。一人の作家の場合だと作品を仕上げるにはどうしても三か月は必要になってくる。彼らの場合、二週間で一つの作品が仕上がるんだ。ファンサービスと異なり、おもしろいテキストが欲しいだけの映像制作会社にとってどちらが魅力的に映るかは説明するまでもないだろう。これも情報社会あってこそ成り立つ協業スタイルなんだろうけどね」
作家にとって最大の福音となったのはペイパルに代表されるマイクロ・ペイメントの浸透かもしれない。
「2012年ころくらいからかな、著名なブロガーを中心に例のフリーミアム・モデルってスタイルがはやりだした。これは携帯ゲームの成功をまねたものだ。ブログの内容の一部を有料で課金するあのやり方だね。ペイパルの登場が大きいよ。それ以前は少額を課金しようとすると手数料だけで半分以上もっていかれるような状態だったからね。こうした状況をペイパルは一変させてしまった。ちょうどグーグルのアドセンス自体が良質なコンテンツを発信しようとするブロガーにとってほとんど恩恵をもたらさなくなってきた時期と合致している。アドセンスの報酬体系を逆手どって広告掲載だけの機械的なブログが増殖してしまったことも理由だと思う。この少額コンテンツの経済規模は現在700億円ともいわれ拡大中だ。いまでは質の高い情報を無料で書くなんてトラフィックの欲しい新参ブロガー以外はやらなくなったよ。タブレットの浸透もおおきいね。ぼくの著書は本としてもアマゾンで販売しているんだけど売り上げのほとんどがデジタル版だ。印刷本は価格もたかくなってしまったし、いまやぜいたく品みたいに扱われてるんだ」
グーグル・ビジネスを自らの事業に取り入れている起業家をみているといくつかの共通点に気づく:
- ほとんどのスモール・ビジネスが一人か二人で運営されていること。(これまでのベンチャー理論の常識は人数が少なければ少ないほど生存率も低くなるというものだった。この矛盾はどう説明すればいいのだろう。個人個人が独立した見解を持つことで人数によるシナジー効果が実は相殺されていたのだ、という説もある。スモールな規模だから少人数なのか少人数だからスモールなのか?そこら辺はこれからも研究がなされていくだろう)
- 統計解析のノウハウをうまく活用している人ほど成功している。(グラフを多い少ないで判断してたのがこれまでのスタイル。統計解析を使う人はこのグラフの数値が確率的にあり得るのかあり得ないのか?といった見方をする。統計データが精確であればあるほど解析結果は有効なものに近づく。そしてほんとうに意味のあるものを採用し、これを繰り返していく、これが彼らがうまくいっている秘訣の一つであることはまちがない)
- 手がける領域にたいして膨大な専門知識を持っていること。(日本人の趣味好きは世界的に有名だが、彼らはただ知識が豊富なだけではない。ビジネスとして選んだ領域に関しても深い探究心を持っている)
こうしたブーム到来前から日本には多様で精確な統計データが存在していた。これも重要な要因だと思う。
こうしてインタビューを俯瞰してみるとあることにきづく。
それはブームとコストの関係だ。
1990年代、情報をウェブ上で発信することはサイトを構築できる技術を持つものがほとんどだった。
ブログの登場で情報発信は一般の人々に解放された。コスト・リスクなく参入できることが可能になったからだ。
そしていま、グーグル・ビジネスやペイパルはビジネスという多くの日本人にとっては”未知の体験”を解放しつつある。
(了)