2010年12月2日木曜日

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データが暴くベンチャー起業の実態

起業を手がけたものは軒並みみな成功するわけではない。

一つのベンチャーが成功する裏には名もなきベンチャーたちが死屍累々と横たわっているのが現実だ。

起業、創業と自らを鼓舞するのもいいが、起業の現実は知っておくべきだ!
しかもできるのであれば、起業をおこなう前に!

グラッドウェルのコラム「The Sure Thing」にも登場する”The Entrepreneurship Myth”の著者スコット・シェーンは同書のブックレビュー・インタビューのなかでそう警鐘しています。

この著書、残念ながらまだ邦訳はでていないみたいです。

これに似たのではベンチャー創造の理論と戦略―起業機会探索から資金調達までの実践的方法論あたりかな。

日本よりも比較的ベンチャーが成功しやすいイメージのある米国の起業セクターの意外にも渋い現実が語られています。

これを読み怖気づくか、はたまた思索につなげるかは・・・

フリーランスや個人事業と、マーケット・ターゲットのベンチャーも一緒くたに捉えている感は否めませんが、それなりに考えさえてくれます。

”稼いでやる”一心の起業は意外とモロイかも・・・読みながらそんなことを思いました。

*     *     *

The Entrepreneurship Myth
book review interview to the Author Scott Shane
by John Tozzi of BusinessWeek.com
January 23, 2008

『データが暴くベンチャー起業の実態』
ブックレビュー・インタビュー
著者:スコット・シェーン
インタビュアー:ジョン・トッツィ
2008年1月23日
抄訳:hiro.senaga

The Entrepreneurship Myth(起業の虚像)
雇われるよりも創業する方が儲かるとされる通説は本当なのか?起業家についてとかく持たれがちなこうした虚像を著者スコット・シェーンは覆そうとしている。


起業は雇用をつくりだしアメリカ経済を牽引し、そのプロセスを通して賢い創業者と老練な投資家に富をもたらす・・・それになにか異存でも?
「おおいにね」”The Illusions of Entrepreneurship: The Costly Myths That Entrepreneurs, Investors, and Policy Makers Live By(起業の虚像:エール大学出版)”の著者でケース・ウェスタン大学で起業家研究が専門のスコット・シェーンは言う。

起業率を高め、会社の数を増やしたところで経済や雇用率の改善にほとんど影響しない。時間とお金という観点からは、むしろ既存の企業群を成長させるほうが効率的だ、とシェーンは指摘する。シェーンはEwing Marion Kauffman Foundationにも起業研究者として在席し、オハイオ州クリーブランドではNorth Coast Angel Fundという会社を運営するエンジェル投資家の一面も持つ。そんな彼が、意欲あふれるすべての起業家に対し起業の実態を認識するよう警鐘しているのだ。

シェーンの著書はアメリカ国内の起業セクターを取り巻く厳しい現実を取り上げている。平均的なベンチャーは5年以内で消滅することになるし、また仮に成功したとしても10年間で比較すると創業者の実入りは本人が雇用された場合にくらべ平均35%も低い。

シェーンはこうした起業にまつわる虚飾されたイメージについてBusinessWeek.comの記者に語ってくれた。ここにその抜粋を紹介する。

―著書の中ではあなたは膨大なデータを用いて起業にかんしてこれまで思われてきたイメージと異なる結論を導いていますが、起業に関してもっとも虚飾されていることは何でしょう?

「ぼくが思うに、起業についてもっとも虚飾されている部分は、ベンチャーの成長や成功はどの領域の事業を手がけたのかということに負っているよりも創業者の才能に負っている部分が大きいと思われていること。創業者の自尊心を傷つける意図はないんだ。ただ起業をとりまく現実はキチンと理解されるべきだと思う。どの領域で創業するかが成否に与えるインパクトはかなり大きい。この20年をふりかえって考えてみるとわかりやすい。20年前にコンピュータやOA(オフィス・オートメーション)の領域で創業したベンチャーの4%がその後フォーチュン500の仲間入りを果たした。同じころホテルやモーテルを手がけたベンチャーがフォーチュン500に加われた確率は0.005%で、外食や飲料業界においても0.007%でしかない。当時コンピュータ業界で創業したとしたらホテルやモーテル業界でおこなうよりもフォーチュン500入りできる(訳注:つまり大成功できる)確率は840倍も高かったことになるんだ」

―著書の副題は『The costly myths that entrepreneurs, investors, and policy makers live by.(起業家や投資家、そして起業推進政策が依存し続ける割高な定説)』となっています。この誤解されている定説に依存した場合の代償とは何ですか?

「創業者個人にとっては・・・平均的、典型的、標準のど真ん中に位置する起業家にもたらされる現実は”失敗”だ。代償とはそれに絡む一切の損失のことだね。起業して失敗した場合、その期間に雇用されていたらっていう代替シナリオと比較することもできる。給料は得てただろうし、安定も手にしていただろう。起業した事業の浮き沈みによるストレスを経験することもなかったろうしね。
こういった個人的な損失だね。個人レベルでいうと・・・そうだな、起業して平均的な結果を出せばそれでうまくやっていけるというのも通説にすぎない。起業から得られる収益の分布はかなり偏っているからね、どの領域でもうまくやろうとおもったら上位に食い込まなきゃいけない。これが現実。上位10%に食い込まないと雇用されて得られる給料を上回る収入を得ることはできないんだ」

―あなたが説くところの典型的なベンチャーを詳しく言うと?

「平均的なベンチャーは資本金がだいたい25,000ドル(訳注:約212万円、感覚的には250万円といったところ)。こうしたベンチャーの資本金はだいたい創業者の貯金から捻出されている。業種は小売か個人事業だね、ヘアー・サロンや衣服店経営とかね。こうした創業者は事業が飛躍的に拡大することは期待していない。だいたいが年間10万ドル稼げれば満点って考えているんじゃないかな」

―それらは個人事業の形態をとっていて創業者以外の従業員はいない・・・その解釈でいいですか?

「そうだね。ほとんどの典型的なベンチャーはそのうえに在宅起業である場合がおおいと考えているよ」

―実態を露呈した著書は支持されていますね。その理由はなんでしょう?

「背景にわれわれアメリカ人が憧憬をいだくイメージと起業家が目指すところがオーバーラップしていることがあげられるとおもう。独立や自助、我が道をいくみたいなね。もうひとつちょっと矛盾した意味あいもあるとおもう。あまり語られることはないんだけど、起業はあるプラス要因をもたらすことを集めた資料が示唆しているんだ。それはね、起業家は被雇用者にくらべ自分の仕事に大きな充足感を感じているってこと。実入りはいまいちだけど、代わりに好きなことを手がけている・・・説明しようとするとそうなるかな。ここにまた一つの通説がうまれる余地ができることになる。好きなことをやってるんだからそれだけでも幸せ(訳注:だから起業することはまったく無駄なわけじゃない)ってね。おそらくそこには金額として置き換えられるなんらかの代償効果があるはずなんだ。そうじゃないと成り立たないからね」

―”被雇用時の2.5倍稼がなければ同程度の経済的満足感を得られないにもかかわらず人々は創業することにより充足感を感じている”と著書の中で指摘しています。もしそうであるなら、よりおおくの経済的なリスクをかかえるということ以外に、なにか問題視すべき点はありますか?

「起業している人が”あのさ、起業して実入りが減るのはわかっているけど人に雇われたくはないんだ。だから創業するのさ”というのはロジックとして十分成立すると思う。それ自体は問題ないよ。問題視する点があるとすれば、人に雇われたくないから創業し、それから充足感を得ているという現実を、”そしてそれは経済的にもメリットがあることなんだ”と歪曲したものにまで発展させてしまうことだろうね」

―典型的な起業家は成功する可能性を自ら下げてしまうような決断をする傾向があることも指摘されています。どうしてそういったことになるのでしょうか?

「起業家があせるあまり十分な時間をかけないというのも理由のひとつだろうね。いい例があるよ。事業計画書だ。さまざまな証拠から創業者は事業計画書をまとめることで事業のパフォーマンスを向上させられることがわかっている。だけど多くの創業者、じつに大部分の人はそうしないんだ。事業計画書をまとめることが有効で創業者がそうしないのはなぜか?他人から出資してもらう場合を除くと、それをやる理由はたったひとつ、経営に指針を与えることなんだ。だけど人によっては”時間がかかりめんどくさいだけ。それよりは事業をスタートしてしまったほうがてっとりばやい”ってなる。とくに焦っているとね。すぐに事業を開始してしまうんだ。それは往々にして拙速でしかない。この傾向の背景にあるのは焦りだとぼくは考えるね。
二つ目の理由は、残念なことだけど、起業にあたり本当に有効なノウハウを創業者が持ち合わせてないことだ。どうすれば事業をうまく成功に導けるのか?・・・に関してはまだ十分な情報が集まってないんだよ」

―著書のなかで”データを検証するかぎり起業を鼓舞するような政策は感心できない”と書いています。代替案を提唱するとしたらどのようなものでしょうか?

「こうした政策がタチが悪いのは、起業することは良いのだから、たくさん創業者が現れるのは社会全体にとっても有益だ、という短絡なロジックだね。改善するとしたら、成功しやすい特定の起業パターンを取り上げて、そのカテゴリでの創業を鼓舞することだろうね。でも今の政策はそもそも特定の有望な起業パターンを奨励するものになっていない。ほとんどの政策は”もっとたくさんの起業家を!”ってボリューム志向のものでしかない。質より量って戦略なんだ。これはタチが悪いよ」

(了)

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